『夏は牝馬を買え』の理由をデータで徹底検証してみた

『夏は牝馬を買え』の理由をデータで徹底検証してみた
競馬ファンなら一度は耳にしたことがある格言、「夏は牝馬を買え」。
本当なのか。なぜなのか。
今回はこの格言をデータで丸ごと解剖します。真偽を確かめるだけでなく、「なぜ夏に牝馬が強くなるのか」という理由まで、よく語られる仮説をひとつずつ検証してみます。
データの定義
対象は2023年1月〜2025年12月のJRA全レースのうち、牡馬と牝馬が同じレースに出走した平地の「牡牝混合戦」に限定しています。対象レース数は7,811レースです。
季節の定義は以下のとおりです。
- 春:3月・4月・5月
- 夏:6月・7月・8月
- 秋:9月・10月・11月
- 冬:12月・1月・2月
※JRAのレース結果を集計した独自のデータベースで集計しています。
まず結論:「夏は牝馬を買え」はデータで支持される
牡牝混合戦における季節別の複勝率です。
春・秋・冬は牡馬が牝馬を大きく上回っていますが、夏だけは牡馬23.0% vs 牝馬22.1%と差がほぼ埋まります。
複勝回収率だとより分かりやすい結果になります。
春・秋・冬はすべて牡馬優位ですが、夏だけ牝馬78.2% vs 牡馬71.4%と牝馬が逆転します。
オッズが「牡馬優位」のまま形成される中で牝馬が走るため、割安感が回収率という数字に出ますね。
「夏は牝馬を買え」の格言はデータからも証明されることが分かりました。
なぜ夏に牝馬は強くなるのか?定番説を検証する
格言が正しいことは確認できましたが、なぜ夏だけ牝馬の成績が上がるのでしょうか。
ここからは、よく語られる理由をデータで順番に検証していきます。
「夏開催は平坦コースが多く、牝馬の機動力が活きる」説
「夏の開催場は平坦なコースが中心のため、小柄で機動力のある牝馬に向く」という説があります。
もしこれが理由なら、平坦コースの競馬場は夏以外でも牝馬が強く、季節での差は出ないはずですがどうでしょうか。
夏以外にも開催される新潟・小倉・福島で、夏と夏以外の牝馬の成績を比較してみましょう。
3場とも夏は複勝率20〜23%台、夏以外は16〜18%台。
平坦コースの競馬場でも夏に牝馬の成績が上がるということは、コース形状ではなく、季節そのものが原因であるということになります。
ということでこの説は否定されそうです。
「夏は有力牡馬が秋G1に向けて休養するから」説
「夏は有力牡馬が秋に向けて休養するため、相対的に牝馬の成績が上がりやすい」という説です。
新馬戦はすべての馬が初戦で「有力牡馬が秋に向けて調整中」という状況自体が起こりえない。そこで新馬戦の牡牝混合戦に絞り、夏と夏以外の成績を比較してみます。
夏は牡馬と牝馬が27.1%で完全に一致、夏以外は牡23.7% vs 牝18.7%と大きく差が開きます。有力牡馬の不在を完全に排除した土俵でも、夏の牝馬優位は変わりませんでした。
この説も否定されそうです。
「夏はハンデ戦が多く、斤量に恵まれた牝馬が好走しやすい」説
「ハンデ戦では軽い斤量が与えられやすい牝馬が有利になり、夏はハンデ戦が多いから牝馬が好走する」という説ですが、調べてみたところ実態はその逆でした。
ハンデ戦の割合は夏が5.4%で最も低く、春(5.9%)・秋・冬(各6.0%)より少ない。
「夏にハンデ戦が増える」という前提自体が崩れるので、この説も誤りです。
「夏は道悪が多く、牝馬が好走しやすい」説
「夏は雨が多く道悪になりやすい。道悪では体の軽い牝馬が有利になる」という説です。
夏の道悪割合は9.4%で確かに高めですが、春(9.9%)の方が高い結果になりました。 春の牝馬の成績が最も悪かった以上、道悪の多さで夏の牝馬優位を説明することは難しいでしょう。
「夏は軽い馬が走る」説
ここまで4つの仮説がすべて否定されましたが、唯一、データで裏付けられそうなのがこの説でした。
夏は馬体重が軽い馬が有利になり、相対的に馬体重が軽い牝馬が有利になるということですね。
体重帯ごとに「夏と夏以外の複勝率の差(夏−夏以外)」を出すと、きれいな構造が見えます。
| 体重帯 | 牝馬 複勝率差分 | 牡馬 複勝率差分 |
|---|---|---|
| 440kg未満 | +5.8pp | +3.5pp |
| 440〜459kg | +4.5pp | +1.5pp |
| 460〜479kg | +4.5pp | −0.5pp |
| 480〜499kg | +3.2pp | −1.7pp |
| 500〜519kg | +3.0pp | −2.2pp |
| 520kg以上 | −0.9pp | −3.5pp |
全体では夏に成績が落ちる牡馬でも、馬体重が軽い帯(440kg未満:+3.5pp、440〜459kg:+1.5pp)では夏に成績が上がっています。牝馬でも520kg以上の大型馬は−0.9ppと苦戦しており、性別に関係なく、夏は馬体重が軽い馬が有利になることが分かります。
牡馬の平均体重は481.8kg、牝馬は454.8kg(約27kg差)。夏は軽い馬が有利になるので、もともと軽い牝馬の方が恩恵を受けやすい、ということです。
ただし、同じ体重帯で比べても、牝馬は牡馬より一貫して改善幅が大きく、(例:460〜479kg帯で牝+4.5pp vs 牡−0.5pp)。馬体重だけでは説明しきれないのも事実です。
ホルモンバランスなど生物学的な要因が絡んでいるのだろうと思いますが、そんなデータは持っていないのでここまでにしておきます...
まとめ
- 「夏は牝馬を買え」はデータでも証明される:夏だけ牡馬との差がほぼ消え、回収率では牝馬が逆転する
- 最有力の理由は馬体重:夏は軽い馬が有利になり、もともと軽い牝馬が相対的に恩恵を受けやすい
- ただし生物学的な要因も絡んでいる可能性が高い:同じ体重帯でも牝馬の改善幅が大きく、馬体重だけでは説明しきれない






